イノベーションとサーバント・リーダーシップ
企業は、国内市場の飽和感や円高デフレへの懸念など依然として経営の先行きは不透明な状況が続き、閉塞感の中に置かれている。それを打破するものとして期待を集めるのがイノベーション(革新)である。イノベーションとは、一般にいわれているように、技術革新だけではありません。新しい顧客価値を生み出すための革新の事業活動のことである。その中には、技術革新、制度の革新、用途の革新、原材料の革新なども含まれる。イノベーションの結果もたらされるものは、より良い製品・サービス、より多くの便利さ、より大きな欲求の満足である。つまり、顧客が求めている欲求(潜在的なものも含め)に対して、製品・サービスを革新的な方法で組み合わせて提供することにより、顧客に新しい価値を気付かせ、市場や社会に変化をもたらす。たとえば、アップルのiPodやiTunesは音楽の聴き方、音楽の売り方、アーティストやレコード会社の収益構造を変えてしまった。
イノベーションとは、大きな構想力と創造力を発揮し、新しい組み合わせで作られた顧客価値を迅速に顧客に提示してフィードバックを受け、顧客の現実を理解しながら潜在的欲求をも引き出し、顧客の欲求に合った顧客価値を提供し、需要を引き出す事業活動ともいえる。したがってイノベーションには、創造力、多面的な視点からの発想、自由な発想、顧客と協調して迅速な仮説検証できる場の提供が必要である。異質な者同士が、問題意識や目的を共有し、それぞれが影響し合って知恵を出し合い、自律的に意思決定を行うことができる自己組織的チームと顧客による開発の場である。アジャイルでは、アジャイル・プロジェクトマネジャー(スクラムマスター)が、そのような場を実現するため、ウォーターフォールで見られるようなトップダウンで細かく仕事を指示していく指示管理型リーダーシップではなく、各メンバーのやる気を引き出し、メンバーが協力し合い、チームとして自主的に課題に対して円滑かつ効果的に対処できるように導くサーバント・リーダーシップが必須となる。指示管理型リーダーシップとサーバント・リーダーシップの比較表を図1に示す(1)。 サーバント・リーダーシップは、AT&T社のロバート・グリーンリーフが提唱したリーダーシップ論で、1970年の著書「The servant as leader」の中で、以下のように述べている(2)。「サーバントリーダーは、何よりもまずサーバント(フォロワーに尽くす人)なのである。まず、初めにフォロワーに尽くしたいという自然な感情があり、フォロワーに尽くすことが第一なのである。そのうえで、導きたいという願望に駆られるのである」。サーバントリーダーは、自分のビジョンやゴールに向かって一緒に付いて来てくれるフォロワーに対し、「尽くしたい」という思いを最初に抱く。それゆえに、フォロワーに必要なものを提供しようと常に努め、フォロワーに信頼関係を築き説得力を行使してゴールに導いていく。このようにフォロワーを思いやり、フォロワーに尽くす心(利他の心・愛の心)で臨むことが、サーバント・リーダーシップの実践哲学で、彼はこれを「Servant First」(相手に尽くす気持や奉仕の精神が最初に来る)と表している。イノベーションを実践するのは現場の社員であり、その社員の人間性尊重を最も重視したアプローチ方法である。サーバント・リーダーシップに必要な能力と特性(3)は、以下のとおりである。これらの能力は、生まれつきのものでなく研修と実践により、強化していくことができる。 1.対人間関係能力 傾聴、共感、癒し、気づき 2.ビジネス構想力と分析思考力 概念化(ビジョン)、先見 3.モチベーションを引き出す能力 スチュワードシップ(利他の心で奉仕)、説得 4.成長、協調を得る能力 成長へのコミット、コミュニティ作り アジャイル・プロジェクトマネジャー(スクラムマスター)は、サーバントリーダーとなり、サーバント・リーダーシップの能力と特性を駆使し、開発チームを以下のような特徴を持ったチームになるよう育成し、イノベーションを実現する開発の職場に作り上げるのである。 ・モチベーションが高い ・職場が明るい、活気がある、笑顔が多い ・充実感や成長のために働く ・やりがい、働きがい、生きがいを感じる ・自主的に言われなくてもやる ・仲間意識、一体感が高い ・誇りや自信を持つ ・意見やアイデアがどんどん出る ・積極的にリスクを取ってチャレンジする ・失敗を恐れず、失敗から学ぶ ・創造性や革新性が高い ・対話が多いワイガヤの職場 ・変革を起こす 以上 参考 (1)Ann McGee-Cooper & Gary Looper ,The Essentials of Servant Leadership:Principles in Practice,Pegasus,2001 (2) Robert K. Greenleaf,The Servant as Leader,Greenleaf Center,1970 (3) Spears & Lawrence,Practicing Servant Leadership ,Jossy-Bass 2004 寄稿 竹腰 重徳 |
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